HOME  会社概要  質問にお答えします  長期優良住宅の断熱
 木造住宅の断熱とは  マンションの断熱とは  通気層について  地震について  火災について


 1)充填断熱と外張り断熱の耐用年数は変わりません。
 2)充填断熱は欠陥工法ではありません。
 3)グラスウール断熱は殺人工法ではありません。
 4)柱が熱橋になるって本当?
 5)毛管現象と結露 
 6)調湿機能建材と結露

 

1)【充填断熱と外張り断熱】
 木造住宅の断熱の正式な呼び方は[充填断熱]と[外張り断熱]であり、(内断熱)と(外断熱)と呼ぶのは誤りです。

【充填断熱】

 充填断熱とは外壁と内壁の間に断熱材を充填する工法ですが、柱は断熱性能が劣るため,第4地域でレベル4に適合させるには100倍発泡のウレタンでで75㎜の厚さが必要です。
 
 湿気を通しやすい断熱材の場合は内装材と断熱材の間に防湿シートを入れ、断熱材の外気側に通気層が必要です。 
【外張り断熱】

 外張り断熱とは板状の断熱材を外壁下地に打ち付ける工法です、建物を断熱材でスッポリ包む形になるので、柱も断熱材で覆われるため、充填断熱よりも断熱材は薄くて済みます。


2)【木造住宅の断熱の意味】

無断熱の室内の水蒸気圧に対する
露点温度の位置
充填断熱の室内の水蒸気圧に対する
露点温度の位置
 
外張り断熱の室内の水蒸気圧に対する
露点温度の位置


 木造住宅の断熱というのは室内の水蒸気圧が露点温度になる位置を(室内壁表面から断熱材の外気側に)変える働きと。

 室温が外気に移動する(外気温が室内に移動する)のを防ぐ働きの二つだけです。

 工法によってはそれ以外の働きを付加したものもありますが、断熱性能には関係ありません。

 つまり、結露(壁内結露も含む)がなく室内の温度が外気に逃げなければ、充填断熱でも外張り断熱でもどちらでもよいのです。

 体感・体験モデルハウス等により《空気がきれい》である事を宣伝している場合がありますが、断熱材には空気の清浄化作用はありません。
 
 《空気がきれい》なのは性能の良い換気装置を使用している事と高気密性による事があります。

 断熱をして露点温度の位置を変えても水蒸気が露点温度の位置まで届けばそこで内部結露します。

 断熱材の性質による施工上の留意点は異なりますが、基本的にはお施主様の求める断熱性能があれば断熱性能には断熱材の位置と材質は関係ありません。

 木造建築物の場合、断熱材の位置の違いによって建物の耐用年数に差が出ることはありません。
家の耐用年数に差が出るのは、断熱材の性質を無視した使い方をした時と湿気の処理の仕方を誤った時だけです。

 
 注 露点温度 ; 湿気が結露に変わる温度


3)【高断熱化の注意点】(以下の3つを工務店様と納得のいくまで確認してください)

イ)断熱性能の選択
 断熱性能はレベル1~レベル4まで、6つの地域に分けてそれぞれの地域での必要な断熱性能が定められています、必要とされる断熱性能に合わせて断熱材と断熱厚みを決めてください。
 特に部屋の温度の半分以上は窓から逃げると言われています、窓の高断熱化が一番重要です。

ロ)気密性の確保
 部屋を高断熱化しても、隙間風が入れば寒くなります、また壁の中を冷気が流れれば断熱性能は減殺されます、その場合は壁の中に気流止が必要です、断熱の方法に合った気密性を確保して下さい。

ハ)湿気の処理
 木造住宅用の100倍発泡の低密度ウレタンやグラスウール、ロックウールの繊維系断熱材や継ぎ目のある板状の断熱材、セルロースファイバーなど湿気を通しやすい断熱材の場合は防湿層(防湿フィルム)と通気層が必要です。
 次の項のナミダダケ事件は湿気の処理を考えなかったために起きたものです。

4)【ナミダダケ事件】

 
 1970年代に北海道でおきたナミダダケ事件とは、オイルショックの時、灯油代節約のために断熱材を厚くしたら新築後2・3年で壁内結露が発生して(又は外壁から雨水が滲入して)、その水のために床下にナミダダケが大量発生し根太が腐り床が抜け落ちたり土台が腐ったりした事件です。

 このナミダダケ事件はRC造マンションの打ち込み内断熱の結露被害とともに多くの人の関心を呼び、建物の断熱の方法の重要性を認識させた事件でした。

 ナミダダケ事件の原因の一つに、湿気を透しやすい断熱材を使用したにも拘わらず、断熱材の室内側で湿気を止めることを怠ったために、室内の湿気が断熱材を通り抜け断熱材の外気側の露点温度の位置まで達したために、外壁に湿気が堰きとめられて断熱材と外壁の間で壁内結露が発生してしまったのです。
 断熱材を使用すれば、断熱材の両側で温度差ができます、温度差ができれば水蒸気圧に差ができます、水蒸気圧に差ができれば水蒸気は絶対湿度の高い方から低い方へ流れるため、その途中で露点温度以下の冷温に出会えば壁内結露をおこします。


薄い断熱材の外壁からの漏水

 ナミダダケ事件の別の原因として考えられるのが外壁からの雨水の滲入です。

 断熱性能を高くした住宅すべてにナミダダケが生えた訳ではないので、雨水の滲入も原因の一つに考えられます。

 無断熱の時や断熱材が薄いときは外壁と断熱材の間には空気層(隙間)が出来ます、そこに雨水が滲入しても隙間を伝わって雨水は下に流れて行ってしまいます。

 断熱材を厚くすると断熱材と外壁下地は密着するので、外壁から雨水が滲入すれば断熱材を湿潤させることになります、断熱材に入り込んだ水は乾燥しにくいのでいずれ土台や外壁下地の下の方の部分を腐らせることになります。

 充填断熱で高断熱にすることは技術的にはそれほど難しいものではありません、しかしながら通気層をなくした充填断熱は外壁から雨水が滲入しないようにする大きな気使いが必要です。

 通気層をなくして外壁下地とアスファルトフェルトを密着させると、外壁下地板とアスファルトフェルトの間で毛管現象が起きやすいので注意が必要です。

 外壁から雨水が滲みこんでいるのに気がつかなければ、地震になって倒壊するまで土台の腐巧に気がつかない事になります。
 

断熱材を厚くした時の漏水

 5)【毛細管現象と結露】

 写真は日本左官組合連合会機関紙(2012‐5‐6)に載っていた物です。

 関東地方で築6年の住宅だそうです、劣化の原因をモルタルの直貼り工法によるものとしていますが、写真を見ると上階の床裏と部屋の上部の壁の劣化がひどいようです。

 同じモルタル直貼り工法でもナミダダケ事件の被害は地盤面から1m位の部分に被害が集中し、それより上は被害がありませんでした。

 劣化被害の状況が違えば別の原因も考えなければなりません、モルタルの直張り工法だけが原因と決めつけるのは早計です。

 
 アドコート株式会社のホームページで鉄はなぜ錆るの?のページの中で毛細管現象と結露の関係について説明があります。
 それによると、水は毛細管の中では平面の場合にくらべると飽和蒸気圧が低くなる性質があり、毛細管の中では平面の70%の水蒸気圧で結露が始まると書いてあります。
 
 モルタルの直貼り工法の場合は構造用合板とアスファルトフェルト(防水紙)の間が毛細管状態になり、平面の70%の水蒸気圧で結露が始まる可能性が有ることになります。

 構造用合板にアスファルトフェルト(防水紙)が張られた構造は、水蒸気圧が上昇していくときは表面が結露する前に結露が始まり、水蒸気圧が下降していくときは表面の結露がなくなっても結露が続き、水蒸気圧が90%位で表面が結露しない時でも結露することになり、壁内結露による劣化被害を大きくします。

 これはモルタルに限ったことではなく、サイディング仕上げでもアスファルトフェルトを構造用合板に直貼りにすれば大きな劣化被害を生むことになります。

 以上から写真の劣化被害の原因は
  1. 壁構造の中に毛細管現象の起こる層があったこと。
  2. 湿気の処理方法の誤りで湿気が壁体内に入り込み、毛細管現象の層まで湿気が達してしまったこと。
  3. アスファルトフェルトが湿気を通しにくいため、劣化被害を拡大してしまったこと。
 最近、木造建築で主流の面材を釘で止める工法(点接着・乾式工法)は外周壁に採用すると、壁内に毛管現象を起こす場所ができやすい工法です。

 面接着は部材間が毛管状態になるのを防ぎます、面接着で外周壁構造を一体化すれば壁体内に毛管現象の起こるところはできません。

 内断熱マンションが透湿抵抗比を考慮しないで<露点温度計算>だけで結露しない理由の一つに、シームレス断熱材から仕上げのタイルまで面接着で一体化されている事があります。

 6)【調湿機能建材と結露】

 昔、北海道で、左官材の調湿機能で結露防止を試みたことがあったそうです。結果は左官材が含水してずり落ちたそうです。これは多分土壁の調湿機能を利用したものと思われます。
 結露が起きるのは相対湿度が100%を超えたとき(飽和水蒸気圧を超えたとき)で、湿気の移動は相対湿度が100%を超ていても空気中の水蒸気量(絶対湿度)の多い方から少ない方に移動します、この現象のため一度結露が起きると結露が結露を呼び結露が広がることがあります。
 この作用は調湿機能建材の中でも起きます、建材の外気側が露店温度以下になれば、建材の中で結露が起きて結露が結露を呼び土壁がずり落ちるほど含水してしまうのです。

 それでは、含水しても変形しない木材や漆喰の調湿機能を利用すれば結露防止はできるのでしょうか?

 30℃の空気と20℃の空気の
 水蒸気量(g/ ㎥)


 30℃の空気の相対湿度と
水蒸気の量
 100% 30.4g/ ㎥
 65%  19.8g/ ㎥

 20℃の空気の相対湿度と
 水蒸気の量
 100% 17.3g/ ㎥
 65% 11.2 g/ ㎥
 左の表は気温30℃と20℃のときの空気の水蒸気量です。

 調湿建材で出来た部屋の室温が30℃で湿度が65%の部屋があったとします。その時の室内の水蒸気量は1立方メートル当たり19.8gです。調湿建材の中にも同じ湿度の水蒸気が吸湿されています。

 この部屋の室温が20℃に下がれば、20℃の空気は17.3g/ ㎥しか水蒸気を含むことはできないので19.817.3=2.5となり2.5g/ ㎥の水蒸気が結露水になります。

 調湿建材の中に吸湿されていた水蒸気も、接している空気の水蒸気量が17.3g/ ㎥ に下がったので、2.5g/ ㎥だけ、接している空気の中に排出されます。
 接している空気はすでに飽和水蒸気圧に達しているので、排出された水蒸気はそのまま結露水になります。

 以上から調湿機能だけでは結露防止はできないことが判ります。

 結露防止に必要なのは調湿機能ではなく、防湿機能と断熱機能です。
 

  
 建材の調湿機能というのは室内の空気だけに作用するのではありません、裏側にも作用します。

 建材の厚みや形状、下地の素材などにもよりますが、室内と壁体内の空気に水蒸気量の差があれば、多湿の室内側で吸湿した水蒸気を壁体内の低湿な空気に排湿します。

 調湿建材の裏側に、防湿処理、又は透湿率の低い部材を面接着すれば、調湿建材は結露防止を助けます。

 そのためには
  • 調湿建材が露店温度以下にならないようにすること。
  • 調湿建材の裏側に湿気が行かないようにすること。


 調湿建材だけでは結露防止はできませんが、多すぎる湿気は吸湿し、乾燥してくれば排湿されて住みよい空気になります。

 さらに漆喰は長期にわたってホルムアルデヒドを吸着することが証明されていますし、木材は多くのVOC成分を吸着します。

 木材は広い音域の音を吸音することで、コンクリートや鉄に無い、やわらかな感じの空気にすることが証明されています。

 それらの作用で調湿建材は、室内を健康的で体にやさしく、ストレスの起きにくい空気にします。
  


7)【断熱材について】

 断熱工法は使用する断熱材によって性格が変わります。コストと不燃性、普及率(施工経験による信頼性)ではグラスウールが一番ですし、地球環境に対するやさしさでは古紙を原料にしたセルロースファイバーが一番と言われています。
 
 現場発泡ウレタンは断熱性能が良く、自着性があるので月日がたっても<ずり下がり>が起きません、又継ぎ目が無く,柱や構造用合板に面接着で密着するので対象物との間に毛細管現象が起きないのが特長です。

 グラスウールがアスベストと形状が似ていることから、アスベスト肺を引き合いに出して「殺人工法」と言っている業者がいます、アスベスト肺は30年~40年位で胸膜プラークが出来ます。 
 グラスウールもすでに40年以上の歴史がありますがグラスウールによる胸膜プラークの患者さんが出たことはありません。
 
 1964年UICC(国際対癌連合)による「報告と勧告」で癌との関連が指摘され、1972年にはILOでも指摘されて2006年には日本でも製造禁止になったアスベストと、F☆☆☆☆(規制対象外)のグラスウールを同列に置くのはあまりにも無理があるのではないでしょうか?
 
 断熱材は10種類以上ありグレードと工法まで考えればその数倍の断熱の方法があります、たとえば屋根と壁では断熱の性能は変わらなければならないため、断熱の方法も変えた方が良い場合があります。
 
 また定期借地権の土地に住宅を建てる場合は50年で更地にして返却しなければならないので、断熱はコストが安く壊しやすいもの(たとえばグラスウールなど)を選びその分住宅設備機器などに予算を回した方がよいのです。(湿気の処理方法を誤らず、ずさんな工事をしなければ50年持たない断熱工法は無いと言えます。)

 断熱に限らず住宅は高性能にすればわずかな手抜きや管理不足でも大きな瑕疵につながる事があります。。

 お施主様のニーズと条件に合わせた断熱の材料と工法を設計士や工務店と相談して決めるのが最良の断熱の方法です。

8)【熱容量の差について】

 外張り断熱の長所として室内の熱容量の差を指摘する人がいます、確かにRC造で外断熱の場合は熱容量の大きなコンクリートが断熱材の室内側にあるために室内側の熱容量は大きくなりますが、木造軸組み在来工法の場合は熱容量の差というのは外壁下地材と垂木に使われている木材の熱容量(木材の量)の差が比較対象の差になります、その差は約25%位(西方里美著「外断熱が危ない」より)しかありません.

 また熱容量が大きいということは温まりにくく冷めにくいということなので、留守がちの家とか隣が空き室のRC造のマンションではかえって光熱費がかかるということもあります。

9)【断熱材の連続性について】

 木造軸組み在来工法の外張り断熱の最大の特長として断熱材の連続性を挙げる人がいます、そしてそのような人たちの中には「柱は断熱性能がゼロに近く断熱材が途切れるため柱が冷熱橋になり結露するから欠陥工法だ」と言う人もいます。

 しかしながら現実には外張り断熱でも庇、霧除け、バルコニーなどは断熱材が途切れていることが多く、また充填断熱でも柱が結露していることもありません。
 
 檜、杉、松などの天然木材の熱伝導率は0,12W/mKであり、押し出し法ポリスチレンフォームB類1種は0,040W/mKですから105㎜の木柱は50㎜の押し出し法ポリスチレンフォームB類1種の約70%の断熱性能があることになります(西方里美著「外断熱が危ない」より)、それ故、柱の断熱性能がゼロに近いというのは誤りであり柱が結露することもないのです。

10)【地震の際の外壁の脱落について】
柱にかかる外壁を支える力は、柱から外壁の重心までの距離かける外壁の重さです。
 充填断熱の場合は柱からモルタルの重心までの距離は 10㎜+20㎜/2=20㎜です。
 外張り断熱の場合は柱からモルタルの重心までの距離は 10㎜+50㎜+20㎜+20㎜/2=90㎜+です。
 つまり、同じモルタル外壁にすれば、外張り断熱は充填断熱の4.5倍の力が必要と言う事になります。
 
 しかもその上、外張り断熱を止めるものはほとんどの場合モルタル以外は面接着を使わず、
釘かビスなど金物を使用します、木材が含湿すれば釘は錆びて劣化しやすくなります。
 
 外張り断熱は数十年後の大きな地震には、外壁の脱落被害の出やすい構造です。
 

このページが木造住宅の断熱を考える時お役に立てれば幸いです   相良 和文 


このページのトップへ戻る



      「RC造の断熱」のページへ                        ホームに戻る